昨年大会が開幕した時点で、ザック・ジョンソンが
グリーンジャケットを羽織っている姿を誰が想像しただろうか。
スキルに偏りがなく総合的に優れていないと勝つことは
至難とされる「マスターズ」は、例年多くのビッグネームたちが
勝利を重ねた。その中で起きた無名選手の快挙は、
一夜にしてジョンソンを“時の人”に成し上げた。
そして迎える2008年、4月10日(木)から13日(日)までの4日間、
ジョージア州アトランタのオーガスタナショナルゴルフクラブで
待望の開幕を迎える。
今年は、昨年のような波乱が起きる可能性は感じ難い。
なぜなら、タイガー・ウッズがシーズン序盤から突出した強さを
発揮しているからだ。
今季は米国PGAツアー4戦に出場し、実に3勝をマーク。
欧州ツアー「ドバイデザートクラシック」でも勝利を挙げるなど、
明らかに周囲とは次元の異なる高みでプレーしている。
昨年はジョンソンに2ストローク及ばず、2打差の2位タイと後塵を拝した。
今年にかける想いには、並々ならぬものがあるはずだ。
3度目のタイトル獲得を狙うフィル・ミケルソンも、
今季は早々と1勝を重ねており、タイトル奪還の可能性は
十分に考えられる。また、米国ツアーで4年ぶりとなる勝利を
挙げたアーニー・エルス、昨年大会でタイガーと並び2位タイで
終えたレティーフ・グーセンら南アフリカ勢も見逃せない存在だ。
さらに、昨季の欧州男子ツアー賞金王に輝いたジャスティン・ローズ
(イングランド)、爆発力を秘めたアーロン・バデリー(オーストラリア)ら、
次世代を担う若手選手の躍進にも期待したい。
そして注目の日本勢。昨季の日本ツアー賞金王、谷口徹が5年ぶり3度目の出場。
同ランク2位の片山晋呉が、4年連続7度目の出場を果たしている。
総ヤーデージが長く、飛距離で後れをとる日本人プレーヤーには
不利な条件が揃うが、持ち味である世界レベルの卓越した
テクニックを駆使し、海外の強豪に挑んで欲しい。
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日本では男子ツアー開幕戦の東建ホームメイトカップで
石川遼の成績知りたさにJGTOのホームページへのアクセスが殺到し、
サーバーが一時ダウンしたというニュースを聞いた。
初優勝が期待された中、石川はトップと5打差の5位タイに終わったが、
石川が大会の立役者であったことは疑いようもない事実だ。
もっとも、ここで言う「立役者」とは「最終成績はさておき」という意味。
つまり、たとえ石川が10位に終わろうとも30位に終わろうとも、
その数字とは無関係に、石川が大会を盛り上げたという意味である。
もちろん、成績や将来性はさておき、
16歳の少年プロがたった一人で大ギャラリーをひきつけ、
テレビの視聴率を格段にアップさせ、
JGTOのホームページを止めてしまうほど
ユーザーを引っ張っていたのだから、それはそれで「偉業」である。
ところで、海を渡ったアメリカの男子ツアーでは、
マスターズ後のベライゾンヘリテージクラシックで34歳の
ブー・ウィークリーが2年連続優勝を果たした。
同大会を2年連続で制したのは、故ペイン・スチュワート(81、90年)、
デービス・ラブ(91、92年)に続く史上3人目だが、
そんな記録はさておき、彼の優勝にゴルフファンと大会関係者は
惜しみない拍手と喝采を送った。
ウィークリーは南部訛りの英語をしゃべり、
見た目はお世辞にも格好いいとは言えないタイプ。
米メディアは彼をしばしば「レッドネック(田舎もの)の代表格」として紹介し、
彼自身もレッドネックを自認している。
噛みタバコをやめる気配は一向になく、
「だって習慣だから、しょーがないよ」。
マスターズで優勝者にグリーンジャケットが贈られるように、
同大会では赤いチェック柄のジャケットが贈られるのだが、
ウィークリーが着ると、これまたお世辞にも似合うとは言えない。
それでも彼は「これでジャケットが2着になった。
土曜日と日曜日に1着ずつ着れるなあ」と、コメディアンよろしく、
おどけて話し、インタビュールームは笑いの渦。
そんなウィークリーは昨年の同大会で初優勝を飾って以来、
スポンサー関係者や地元メディアの招待ラウンドに何度も足を運び、
大会への恩返しを続けてきた。
大会関係者からは「こんなチャンピオンは初めてだ」と喜ばれ、
「この大会のヒーローだ」と密かなる人気を誇ってきた。
そして今年。再びウィークリーが優勝したため、
「オレたちのブーがこれからもオレたちの大会のためにやってきてくれる」
と関係者の喜びは倍増した。
そう、優勝したウィークリーは同大会の立役者なのだ。
石川とウィークリーを比べたら、同じ「立役者」でも、
石川はイケメンの若者、ウィークリーは田舎くさくて
中年に近づきつつある太り気味のダサ~い男。
石川の夢は「マスターズで優勝すること」だそうだが、
「どの試合も試合は試合。メジャーもジャスト・ゴルフ」という
ウィークリーはマスターズの開催時期をうっかり忘れ、
マスターズウィークにハンティング旅行を計画していたほどの無頓着ぶりだった
(出場して20位タイだった)。
この2人のタイプには天と地ほどの差がある。
だが、勝てなかった立役者と2連覇を果たした立役者、
どっちがアスリートとして格好いいかと問われたら、
そりゃあ石川の健闘したけれど、
やっぱり勝利を飾って大会を盛り上げた立役者のほうが
「役者が1枚上手」なのではなかろうかと、密かに思ってしまう。